鳥取県にある人口約6,500名の小さな町、智頭町にて、「特定地域づくり事業協同組合」として、人材不足の解消を目指した、地域に特化した人材派遣組合を2021年6月より運営。町全体を1つの会社として⾒⽴てて、組合が「地域の⼈事」を担い、地域の働き手不足の解消や、事業者のノウハウ不足、町にそもそも必要な新たな仕事(事業)づくりの支援などを目指している。

地域の人事部・ホールディングスとして、事業創出を目指す

組合の特徴について教えてください

 特定地域づくり事業の制度を活用した「マルチワーカー」の人材派遣と、都市部にいながら地域と関わる「副業人材」の2種類の人材を活用し、地域の事業者の活性化を、組合がハブとなって推進していく中間支援組織のようなイメージです。地域にいるからこそわかる事業者の課題の抽出や、信頼関係の構築を現地で行い、外部の専門人材とのコミュニケーションにおける翻訳をし、地域と都市部を紐付けながら一緒に課題解決をして、持続的な成長を生み出すための支援を行っていく方針です。方向性は、人手不足の解消に限らず、地域の商品開発や事業継承など多岐に渡りますが、地域に住むマルチワーカー(複業人材)、外部人材(副業人材)と、地域事業者が一体となって活動できる仕組みづくりを目指しています。

 

活動をするうえで大切にされている事はありますか

 私たちは地域・外部双方の蓄積したノウハウや地域ならではの強みを享受し合える環境を大事にしつつ、副業人材や地域の事業者、住民と一緒に事業をつくっていくことを大切にしています。また、副業人材の地域への関わり方はワーケーションなどの単発の関係ではなく、いかに地域や事業者と深く付き合っていっていただけるかを目指し、2拠点生活などの新たな暮らし方の提供や、複数の事業に参画していただくなど、副業人材個人に向けた多様なキャリアの実現も支援したいと考えています。関係者の柔軟な働き方を実現すべく、林業家とコラボしたコワーキングスペースの開設や、智頭に関わる副業人材限定のイベントなど、智頭町を第2のふるさとと感じていただける企画も進めていす。

 

事務局の立ち上げメンバーとして、幅広い人材が参画

当時の応募状況に関する率直な印象はいかがでしょうか

 今回初めての募集でどのような方から応募が来るか分からなかったこともあり、ターゲットを広めに取った募集内容で掲載させていただきましたが、結果、組合のコンセプトに共感いただいた120名以上の方からご応募をいただくことができました。応募者の属性としては都市部の30〜50代を中心に、副業に興味があって今回初めての方、これを機に地元に関わりたい方、地方創生に関わる仕事で腕試しされたい方など、本当に幅広い考えをもつ方から応募がありました。立ち上げ間もない組織でしたので、優秀な方からたくさんご応募いただけたことはとても心強く思いました。

 

 今回は幅広い事業構想を推進していくため「オンライン環境での事務局体制の立ち上げ」をご一緒できるスタートアップ的な立ち上げフェーズをご理解いただきつつ、事業企画や組織運営などに知見のある方々にご依頼することになりました。

 

地域の事業者と副業人材の橋渡しができる存在へ

今回のプロジェクトでは、どのような取り組みを行いましたか

 2021年4月に設立し、6月に認可されたばかりでしたので、事務局の立ち上げと事業の整理が直近の課題でした。副業人材のメンバーの方には、オンライン環境での事務局運営構築、事業企画全般、特定地域づくり事業としての採用・広報などを中心に取り組んでいただきました。

 

プロジェクトの成果あるいはスタート後の変化について教えてください

 幅広いキャリアの副業人材を巻き込む(事務局)運営のスタイルが定着してきたと感じています。採用活動や地域事業者とのコミュニケーションも順調に行き始めており、次期に向けた事業計画の策定や、行政や地域団体との連携なども進められています。

 

実際に副業者と働かれてみて、副業人材の活用をどのように感じましたか

 はじめは「オンライン中心に関わるため副業人材が地域の事業者などと馴染めないのではないか」という心配もありましたが、智頭町へご家族でお越しいただいたり、オンラインでもお話しする機会が増えるにつれ、しっかりした連携ができ、リアルに接することが難しい中での関係構築もできると自信を持つことができました。また、この組合を通じた、副業人材の方々同士のコラボレーションや、地域事業者とのシンクロなど、想像しなかった化学変化も見られ、このような副業人材の活用をきっかけにしたプロジェクトならではの面白さを生み出せるのではないかと期待もしています。特に副業人材間では、異なる環境で養われた価値観やスキルが、良い化学反応を起こしていると思いますし、関わっていただく魅力の一つになってきているようにも思います。

 

副業人材の活用を検討されている方にアドバイスはありますか

 特に重要と感じたのは、事業者側の募集内容の明確化と面接過程の2点です。求人票の原稿では、自社の課題をどれだけ言語化できるかによって、集まる人材の傾向が変わります。副業人材がこれなら関わりたいと思っていただける課題設定をすること、そのための自組織の課題を絞り込むことが大事だと思いました。また、面接過程は適した人材を見分けるための大事な機会なので、副業人材が参加しやすいような工夫やスピーディーな面談設定など、副業人材の活用経験がある企業に相談してみると、準備しやすいと思いました。

 

副業人材の村本さん、石田さん、石川さんにもお話を伺いました

応募の背景として、どのような部分に魅力を感じましたか

村本さん…私は将来的に出身地である鳥取県に貢献したいと考えていました。その想いをどう実現していくか悩んでいたのですが、このプロジェクトを見つけたときに、1つの企業だけでなく、町全体を支援する事業に関わることができる点に惹かれて、応募を決めました。

 

石田さん…自身が地方出身であり自身の経験やスキルを活用して地方を元気にするお手伝いをいつかしたいと考えていた時に、「地域の人事部」という地方のリソースを最適化、最大活用して、経済の力で地域を元気にしていきたいというビジョンに共感し、応募しました。また本プロジェクトは地域の市場規模が限定的な「地域」というドメインにおける新規事業のため、大きな企業ではなかなか経験し難いプロジェクトとも感じており、自身のキャリアにとても貴重な経験と考えています。

 

石川さん…1つの企業をサポートするよりも、包括的に地域の課題と向き合える点に魅力を感じました。1つの企業と関わるだけでは見えてこない、地域の課題のバックグラウンドを知りながら、マーケティングのスキルも伸ばす良い機会になると思い、プロジェクトに応募しました。

 

実際に業務を進めていくうえで、工夫したポイントを教えてください

村本さん…私はマルチワーカーである複業人材の採用と智頭町複業協同組合の広報を担当しています。採用においては、特に地域事業者様とのコミュニケーションを大切にしています。どういう人材に来てほしいのか、その人材がなぜ必要なのかといった部分の言語化が課題でした。そのため、地域事業者様の目線に立って本質的な要望を分析し、地域への適応性や価値観の親和性など、人材の要件を細かく定義して、ニーズと齟齬のないマッチングを心掛けています。

 

石田さん…私が担当している事業企画や事業開発の領域では、組合のメンバーとの共通認識を持つことに注力しました。というのも、実際に事業の方向性や新しい構想を考える上で、メンバー間での前提事項や要件のすり合わせができていなかったり、事業を広げるための想いや思考プロセスが違うことに気づいたためです。メンバーごとにバックグラウンドや言葉の定義が違うため、特にプロジェクトの初期段階では頻度高く定例会を設ける等コミュニケーション量を増やし、各々の考え方や人柄の理解を深めていくことで、同じ方向に進んでいける環境を作っていきました。

 

石川さん…事務局の運営領域の立ち上げを担当するうえで、私が大事にしたのは柔軟性を持ったルール作りです。特に本プロジェクトには様々なバックグラウンドを持つ複業人材に加え、外部企業の関係者や行政の方など、幅広い方が参画しています。そのため、参加者に合わせたオペレーションフローや連携する情報の粒度感に注意しないと、コミュニケーションエラーのもとになりかねません。定例ミーティングなどは目的を明確に可視化し、アジェンダを事前に整理したうえで実施する、ツールは何をどう使うのか決める、など細かいオペレーション構築はもちろん、新しい人材が入ったときの拡張性も考慮して、環境やルールを整えるよう心がけています。

 

今回のプロジェクトを通じて、地方副業に対する考え方について、どのような変化がありましたか

村本さん…もともと2拠点生活に興味を持っていたのですが、今回のプロジェクトを通じて「実現できそう」という良い発見がありました。実際に智頭町でテレワークを行うことができたので、今後は頻度を増やしながら、もっと柔軟な働き方を実践できないか考えていきたいと思います。

 

石田さん…ロマンとソロバンの両方が大切という観点で、数値だけでなく、地域に根付く想いや関係性も大事だと実感しました。また、家族に副業の位置づけをどう説明するかで悩んでいましたが、実際に智頭町まで一緒に足を運んで、家族にも地域のファンになってもらったり、自分が貢献できる人や場所もリアルに伝えられたことで、家族の納得感を得られたのは非常によかったと思います。

 

石川さん…テレワークが普及し、必ずしも都心で働かなくて良いのでは?という考えを元々持っていました。今回のプロジェクトで実際に智頭町を訪ねてみて、自分や近しいニーズを持った人にとって、収入や場所に折り合いがつき、やりたいことが実現できるのであれば地方に住んで働くというのは人生の選択肢の一つになると改めて思いました。現在はリモートで関われる地方副業も多いので、興味がある方はまずは飛び込んでみるのがお勧めです。

 

ご自身のキャリアについて、今回の副業がプラスに働くと感じるポイントはありますか

村本さん…1つの企業にいるだけでは出会えないメンバーと働けることが、大きな魅力だと感じました。それぞれの企業ならではの価値観やフレームワークがあるため、新しい視点での考え方や仕事の進め方について参考になる部分が多かったです。

 

石田さん…これまで誰もチャレンジしていなかった領域での事業立ち上げは非常に面白いですし、1つの企業だけに属したキャリアでは得られにくい経験だと思います。また、副業を通じて様々な業種・職種の方と出会えるため、個人としての関係人口が広がったのも魅力に感じました。

 

石川さん…1つの会社に依存しない働き方ができたことで、自分のスキルをつける・活かす幅が広がったと感じました。多種多様なバックグラウンドを持つ方と関わり、さまざまな視点に触れられる環境がある。そして、その中で新しい発見や学びが得られることで、本業への還元はもちろん、今後のキャリア形成を考える上でも貴重なきっかけになると思っています。