鳥取県智頭町でブドウと白ネギの栽培・販売を手掛けている、家族経営の農家。育てるブドウは20品種を超え、自家加工したドライフルーツ“干し葡萄”は、ワインを食べているようだ!と人気沸騰中。現在、「農業×食育」「農業×広告」など、新しい農業の未来を模索している。

様々なジャンルの人との繋がりが欲しかった

副業人材を募集された背景を教えてください

 ちづの農家旬菜屋は、夫婦で営む、家族経営の農家です。元々、人材雇用の予定はなかったのですが、長年「農業」というある種のツールを通じて、様々なジャンルの方々と交流を持ち、何か面白いことができればと考えていました。副業人材であれば、「新しい農業の未来」を一緒に話し合える壁打ち相手を募集できるのではないかと考え、活用を決めました。

 

 募集に際しては、明確なタスクはなかったため、日々の業務に関する募集ではなく、様々な経歴をお持ちの方々と繋がりたい、仲間を増やしたいとの思いでした。中途採用は長期雇用が前提となりますので、短期間で経験者を活用できる副業人材の方が、私たちの希望にマッチしていました。報酬面でも、気軽に相談に応じてくれたのも大きかったです。月3万円での契約が通常ですが、副業人材とも話し合い、栽培した野菜や果物の現物支給を行うことになりました。

 

この方と一緒に、農業の未来を話し合いたい

募集した時の状況はいかがでしたか

 合計で9名の方からご応募をいただきました。応募者数ゼロの想定もしていたので、とても嬉しかったです。経歴はバラバラで、良く知る大手広告代理店出身の方からのご応募があったのは驚きでした。書類選考をして、9名のうち、4名の方に面談をお願いしました。面談でお会いした方々は関西よりも関東が多かったです。月額報酬を現物支給にしたいことついては、皆さん快く受け入れてくださり、選考はスムーズに進みました。

 

選考の決め手となったポイントを教えてください

 担当業務が明確に決まっている募集ではなかったので、Web面談は、お互いの自己紹介の場に近かったです。面談では、農業への興味があり、将来的に農業分野で何かチャレンジしたいという志がある方、何か一緒に楽しいことができそうな方の二つの基準をもとに選考を実施しました。面談をした方の中のお一人、本橋さんも、印象がとても良かったんです。

 

副業人材の本橋さんには、具体的にどのような印象を持たれましたか

 本橋さんは63歳と年長者なのですが、ものすごい気さくにお話ができる方だと感じました。人柄の良さもあり、本橋さんのお話はスーッと頭の中に入ってくる。私たちも緊張することなく自分の意見が言える。本橋さんとは、最初のWeb面談から、心地よい関係性を築くことができたと思います。経歴についても、飲食、製造、流通、小売、外食と幅広い業種経験があり、ぜひ、この方と一緒に農業の未来を話し合いたいと思い、案件への参画をお願いしました。

 

契約期間を終えた後も、関係性は続いている

副業人材と、どのようにプロジェクトを進めましたか

 プロジェクトというよりも、関係性の構築といったイメージに近いですね。期間は、2021年7月から2022年3月末まで。話し合う曜日は固定化せず、お互いの都合をすり合わせながら決める、ゆるやかなものでした。マッチングした副業人材の方々とは、私たちがどんな農業をしているのか、HPには載っていない情報を詳しくお話したり、新たな農業の未来についてディスカッションしたり。これからの“農業の可能性”について、普段出会えないような県外の、しかも異業種の方々の考えを聞き意見交換できたのは、私たち夫婦にとって、とても有意義な時間になりました。

 

副業人材活用の成果があれば教えてください

 私たちは農協を通さず、直接消費者のお客様に農産物を販売しています。コロナ禍の影響で対面販売に制限を感じる中、農家として孤立せず、他県の方々と繋がりを持てたのは本当に心強かったです。話し合いの場を通して、商品アピールの仕方やSNSの活用のアドバイスをいただくこともありました。副業人材の方々とは引き続き連絡を取り合っています。私たちは先日第一子が生まれたばかりなのですが、ご丁寧にお祝いのメールをいただいたことも。信頼できる相談相手ができ、鳥取県の事業を活用して良かったと感じています。

 

農家に夢が持てる未来を目指して

今後の事業目標があれば、ご紹介いただけますか

 私たちが大切にしていることが、四つあります。それは、農産物を通して人と人とが繋がる場になること・日本の伝統食乾物の良さを広めること・農業を次の世代に繋ぐ橋渡しになること・農を生業にして暮らす私達を見て、将来農業を志す人が出ることです。どの業界も抱えている問題は共通していると思っています。現実を把握し、解決策を模索することなしに、現状を変えることはできません。家族経営の農家が今後どういった方向に進んでいけばいいか、将来像やその課題がおぼろげながら見えるだけでも、私たちとしては大成功だと思います。そのためには、今後とも副業人材の方々のサポートが必要です。サラリーマンより農家がよいと言われる未来を、農家に夢が持てる未来を目指して、これからも副業人材の方々と一緒に面白い取り組みができればと考えています。

 

副業人材の本橋さんにもお話をお伺いしました

応募を決めた背景を教えてください

 私はこれまで、飲食、製造、流通、小売、外食と様々な業界で、主に商品企画、サプライチェーン構築、マーケティング業務に携わってきました。現在、静岡県の伊東市に住んでいますが、徳島県で仕事をしていたこともあり、事業を進める上で、地方都市が抱える過疎問題に直面することが多かったです。徳島県も鳥取県も、抱えている問題は同じ。鳥取県には店舗を構えた経験もあったため、勝手ながら親近感を抱いていました。ちづの農家旬菜屋さんの案件に応募したのは、元々農業への興味があったことです。小売業でも外食業でも食べ物に関わる仕事であり、農業や畜産といった第一次産業に自分は今後どのように関わっていくべきか、自分の中のテーマでもありました。また、募集内容が「農業の未来を一緒に考えてほしい」との内容だったため、私の経験の中で、何かお手伝いできることがあるのではと考え、応募させていただきました。

 

ちづの農家旬菜屋のご夫妻とはどのようなお話をされましたか

 決まった議題は設けず、現在直面している問題をベースに、“農業のこれから”について話し合いました。

 例えば、中国からの原料の輸入が難しくなったため、化学肥料が値上がりしているとのお話を受け、外食業界ではこんな動きがあるといった具合に他業界のトレンドをお伝えしたり。また、消費者目線でのアドバイスをさせていただくことも多かったです。

 

最後に、プロジェクトにかける想いや今後の目標などを教えてください

 ちづの農家旬菜屋のお二人と話し合う中で、地方で腰を据えて事業を行っていくには、関係人口を如何にして増やしていけるかが今後重要になるという見解へと至りました。大都市と比べ、人口が少ない。核家族化が進み、問題が起こっても誰に相談すればいいかわからない。そのような地方ではこれまで以上に、既存の関係性以外でコミュニケーションの機会を持ち、新たな事業構想につながる情報を得ることが大切になっていきます。農業×外食、農業×食育、農業×広告など、関係人口を増やすことができれば、過疎化に悩む地方であっても、事業を発展させていける選択肢も増えていくのではないかと。

 ちづの農家旬菜屋のお二人は短期的な市場主義に捉われることなく、長期的な視点をお持ちです。農業の未来を見据え、今後私にお手伝いできることがあれば、ぜひお声がけいただけると嬉しいです。