鳥取市に拠点を構える、地域密着型のコミュニティー放送局。愛称は「RADIO BIRD」。開局前は、鳥取市は全国で唯一の「民間ラジオ局の本局がない県庁所在地」だったが、FM鳥取の開局により解消。ラジオ局の閉局が増加している中、日本で最後まで残るラジオ局を目指し日々奮闘している。

「生き残る」ために、募集をかけた

副業人材を募集した背景を教えてください

 ずばり、「地方メディアとして、未来をどう生き抜くか」――私たちの、今後の在り方そのものを考える段階に迫っていることを、実感したからです。今まで私たちは、いわゆる「地域の情報インフラ」であるという自負がありました。エンタメ的な放送局というよりも、地域の方が求める「役に立つ情報」を正確に届けるポジションだということです。これからもその認識は変わりませんし、だからこそ運営を続けなければならないという使命感も持っています。では、そのために何をするべきか。運営を続けるために切っても切り離せないのが「収益」です。地域からの広告による収益獲得は、年々、人口縮小に伴い難しくなっています。鳥取県の人口は2010年で60万人を切り、2020年時点で約55万人。縮小スピードから見ても、このままいけば、私たちの未来は確実に危ぶまれます。

 

 これからの未来を生き残るには、従来型の広告収入以外の新たな収益源を得るための仕組をつくらないといけないですし、そのためには、改めて私たちのアピールポイントを洗い出さなければなりません。そして、もし私たちが地域メディア復興のロールモデルとなれば、同じような悩みを持つ地域メディアへ、生き残るノウハウを共有できるのではないか…そう思い立ち、外部の方の力を借りることに決めました。

 

「未来を考える」募集に、43名ものエントリー

募集した時の状況はいかがでしたか

 本音を言えば、募集を出す前はエントリーが集まるかちょっと心配でした。お任せしたいことが「これからの未来に向けたアイデア出し」…と、非常にふんわりとした状態でしたから。ですが募集を始めたところ、なんと43件ものエントリーが集まったのです。鳥取という地方のメディアの未来に、ここまで興味を持っていただけたことは、とてもうれしく、またありがたい誤算でした。

 

実際に選考はどのように進められましたか

 私たちと同じ目線に立って、ラジオの成長を面白がっていただけるかを最も重要視しました。今回、副業人材に期待したことは一方的にアドバイスを貰うことではなく、あくまでもともに楽しみながら、ラジオという存在を育てていく、その方が、思いもよらないアイデアが生まれるのではないかと考えたからです。選考では、経歴のみを重視するのではなく、プロジェクトに対する心持ちも加味して、最終的に6名の方にお願いすることにしました。

 

副業人材の言動すべてが、新たな「気づき」に

6名の方と、プロジェクトはどのように進めていますか

 プロジェクトがまだ始まったばかりため、現状は大まかな意見の出しあいを行っている状況ですが、すでに想像以上の気づきを得られています。副業人材の皆さんには、プロジェクトが始まる前に大枠でできること、できないことをお伝えしていたのですが、その内容が漠然としていたにもかかわらずそういう状況なら、こういうことが出来そうですよねと、具体的にご自身の中に落とし込んだうえで、アイデアを積極的に提案いただきました。その他にも、都市部にいらっしゃるからこそ感じる、地方ラジオの役割や魅力も率直にお伝えいただきました。県外の方からの目線やアドバイスは、元々のメンバーだけでは決して思いつかないものばかりで、1つひとつが地方メディアとしての価値を洗い出すヒントとなるので、とても参考になります。

 

そのほか、副業人材を活用して「よかったな」と思うことはありますか

 Slackの導入は、とても新鮮でした。とある副業人材から少しでもメンバーの意見交換が活発になるようにと、ご提案いただいたことがきっかけでした。業務の進め方ひとつにおいても、非常に勉強になりますね。

 

活用を迷う時間さえ、もったいない

最後に、活用を迷われている方に向けて、アドバイスをお願いします

 リスクが少ないのだから、活用しなきゃ損!…これに尽きると思います。普段なら絶対に接点を持てないような、さまざまなご経験を持つ方とタッグを組める素敵な機会なので、今の状況に新たな風を吹き込みたいと思うのであれば、悩んでいる時間がもったいないんじゃないかと思います。少しでも迷われているのであれば、まずは手を挙げてみることで、何か突破口が見つかるかもしれません。

 

副業人材の方々にもお話を伺いました

今回のプロジェクトにエントリーされた背景を教えてください

・もともと出身が鳥取だったのですが、数十年鳥取を離れて暮らしていました。定年を迎えた今、改めてFM鳥取さんの力になることで、現在の鳥取を知り、鳥取全体に貢献したいと考えたことがきっかけです。

 

・ふるさと納税や、ワーケーションなどの企画を担当していたため、地方というキーワードには元から馴染みがありました。その中で、FM鳥取さんが発信した地方ラジオ局が新しいことをはじめるというメッセージ性に興味を持ったからです。

 

・非常にシンプルで、鳥取から発信するラジオという希少性にワクワクしたからですね。あとは、元々音声プラットフォームアプリにも関わっていたので、音声という領域に興味があったことも大きいです。

 

このプロジェクトを介して、得られた経験があれば教えてください

・制約がある中で、戦略を考えることですね。FM鳥取さんは少数精鋭のため、限られたコストとリソースの中で、どのようにアイデアを形に落とし込むかを考える必要がありました。これは、大きな組織では決して得られない経験です。

 

・話し合いのための環境をゼロから作ったことです。「鳥取にはこういう食べ物があって…」といった、ささいな情報交換からもアイデアは生まれると思ったので、リアルタイムで気軽に意見を発信できた方がよいと考え提案しました。FM鳥取さん側も、Slack含めこちら側の提案を柔軟に受け入れてくださるスタンスなのでありがたいです。

 

企業との関わりの中で、気を付けたことを教えてください

・企業さんとの「目線合わせ」でしょうか。対価の落としどころを見つけるのはもちろんのこと、言葉の選び方も重要だな、と感じました。例えば、話し合いの中で専門用語を何気なく使用したところ、それってどういう意味ですか?と問いかけがありまた。自分の当たりまえが相手にも通じるとは限りませんので、どんな細かいことでも、すり合わせは大切ではないでしょうか。